インサイド・ルーウィン・デイヴィス

水曜日。

友だちといっしょに、ウェス・アンダーソンの新作『グランド・ブタペスト・ホテル』を観に行こうと新宿シネマカリテへ。
21時からのレイトショーを観ようとチケットを買いに行ったら、もう最前列はじっこの数席しか残っておらず。

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このまま帰るのも何だしなぁ、と思っていたら、すぐ近くの新宿武蔵野館でコーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』がちょうどいい時間でやっていたので、のぞいてみることに。
こちらはすんなりチケットが取れた。
そうだそうだ、これも観たかったのだ。

 物語の舞台はまだマスコミやレコード会社などが発達していなかった1961年、NYのグリニッジ・ヴィレッジ。ライブハウスで歌うフォーク・シンガーのルーウィン・デイヴィスは、最近何をやっても裏目に出てばかり。一文無しで知り合いの家を泊まり歩く日々。つい手を出した女友達からは妊娠したことを告げられ、おまけに仕方なく預かるはめになった猫にも振り回される始末。山積みになったトラブルから逃げ出すようにルーウィンはギターと猫を抱えて人生を見つめ直す旅に出る。ジャズ・ミュージシャン、ローランドとの悪夢のようなドライブ、歌への信念を曲げれば成功するかもしれなかった有名プロデューサーのオーディション、年老いた父との再会の末、とうとう歌をやめて父と同じ船員に戻ろうと決意するが、それさえもうまくいかない。旅から戻りあらゆることに苦しめられ打ち拉がれたルーウィンはまたNYのライブハウスにいた。歌い終えたルーウィンがふとステージに目をやると、そこにはやがてフォークの世界を大きく変えることになる無造作な身なりの若者、ボブ・ディランらしきシンガーの姿が。同じような日々がまた回り始めたかのようにみえるルーウィンの人生。しかしその外側で、彼の想いを受け継いだかのように、新しい時代がすぐそこまでやってきていた......。

コーエン兄弟ならではの、独特のリズム感とユーモアとくすんだ色合いが沁みる、淡々と流れるけれどヒリヒリするものがたり。
みうらじゅん先生がイラストを寄せていたのもなるほど納得。

そして「猫がかわいい映画」というウワサは聞いていたけれど、ホント。
猫がたまらん。
朝寝床に乗っかって来て、胸元ふみふみしてグルグルとごはんをねだるところとか。ムグウ......猫!猫よ!!


年老いた両親を顧みず、東京で俳優としてやってこうと思いながらも、なかなかそれだけで食べていくには難しく、悩みを打ち明ける恋人もおらずなんだか空回りする日々のなか。
なんともルーウィンの生きざま、息苦しさが身につまされる映画でありました。
ちょうど俺も先日お姉ちゃんに電話で叱られたところだよ。


それでも、ルーウィンは唄うのだな。
のびやかな声で。


何も予備知識もないまま、フラッと観たけれどとても良い作品でした。
ときどき見返したくなる映画に出会った感。
しみじみかみしめる。

『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』や『バーン・アフター・リーディング』などもお気に入りなのですが、やっぱりコーエン兄弟はいいですね。
大好きな監督のひとり。

 
YAMAZAKI Kazuyuki (2014年6月25日 23:14)