俺の酒が呑めない

土曜日。
ひさしぶりの観劇はしごデー。


まずは代々木八幡の青年座劇場にて、箱庭円舞曲の古川貴義氏が脚本を提供した、劇団青年座『俺の酒が呑めない』を観に行ってまいりました。

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2015年、秋。
福島県会津にある小さな造り酒屋・徳一酒造では、
今年も寒造りが始まっていた。
賑々しく大吟醸用の精米が行われる中、
長い間音信不通だった長男・賢太郎がひょっこり帰ってくる。
映画監督になる夢をようやく諦め、
実家を助けようと戻って来た賢太郎だったが、
酒造を継いだ妹の希穂は、好き勝手に生きてきた兄を冷たく拒絶する。
ベテラン杜氏・牛島忠道ら周囲の人々からもよそ者扱いされ、
実家には居場所すら見つからない。
ならばと、昔の伝手を頼りに、
東京の大手居酒屋チェーンとの専属契約を画策するのだが・・・。


会津の造り酒屋が舞台の、家族のおはなし。
劇場に入ると、麹の香りがほんのり漂う空間になっております。酒好きの本能に訴えかけてくるこの香り。

古川氏の故郷でもある、会津のお国言葉で交わされるストーリー。
実にザックリ言うと、大変グッとくる作品でありました。


以下、多少ネタバレを含むので、まだ未見の方は読み飛ばしてくださいね。


なんというか、新潟の実家のパン屋のことをいろいろ連想して、ひとつひとつの台詞や、それぞれの人物像が、ちょっと自分の琴線にビッシビシ響いて仕方なかったのですワ。

「もういい加減根無し草みたいな生活辞めて、実家に戻ってパン屋の仕事を手伝ったらどうなんだ」

と、何年か前に家族から強めのプレッシャーをかけられ、一度は新潟に帰ろうかと悩んだこともあったものの。
それでもどうしても役者で食っていくという道を諦められず、家族の反対をなんとか押し切って東京での生活を選び、今に至るわけですが。

とはいえ罪ほろぼしではないけれど、少しでも何か力になれることがあればと、たまに帰省するたびに「あれはこうしたらいいと思う」「あれはよくないんじゃないか」と、何かしら上から目線のアドバイスなどしてみたりするけれど、「実際の現場のことを何も知らないくせに、東京の理屈ばかりえらそうに振りかざすな」と言う父や姉とぶつかったりして、どうも大人げなく声を荒げてしまったりするんですよね。
悲しいかな。

結局力になりたいなんて言いつつも、腹くくって実家に帰って手伝うというくらいでないと、単なる外野のお節介でしかないんだよな、といつも東京に戻る電車のなかで思うのです。


そういう背景から観た、この
「映画監督になる夢を諦め、実家を助けようとひょっこり戻ってきた長男・賢太郎」
という人物像が、
「あのときこうしていれば、自分もこうだったのかもしれない」
という姿に見えたのですね。

これはまさに、
去年の秋に出演した箱庭円舞曲の舞台
『もっと美人だった』
の主題だったわけで。


なんというか、まんまと古川氏にしてやられてしまったなァという感想でした。
そしてまんまと日本酒が呑みたくなってしまったわけで。

いやぁ。

あまり古川氏にゆっくり感想を伝えられなかったので、近いうちに日本酒呑みながら伝えようと思うのです。


 
YAMAZAKI Kazuyuki (2016年1月23日 18:15)